Eugene Atget: Paris (Masters of the Camera)Eugene Atget: Paris (Masters of the Camera)
Wilfried Wiegand Eugene Atget Anne Heritage

Te Neues Pub Group 1998-12
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アッジェ自身は写真集を制作したことはないので、この本は数万点ある彼の厖大な写真群から何十枚かをセレクトしてまとめたものです。撮影年代も19世紀末から20世紀前半までと期間が長く、地道な作業をうかがわせます。アッジェが旧式の重いカメラを用いていたという話は写真史の著作などでよく見かけますが、この本の中にレストランの扉を正面に捉えた写真があって、その扉のガラスに反射してアッジェの撮影風景が写りこんでいるものがあります。この写真は20世紀初頭のパリの姿の貴重な記録というだけにとどまらず、アッジェの撮影風景の貴重な記録としても機能しているように思われます。
この本のセレクトの問題なのか、アッジェの写真には俯瞰するような構図がなく、どれもアッジェの目線と同じ高さにあります。カメラ機材の重さが理由として考えられますが、タルボットやダゲールの写真にすでに建物の上から撮影したものがあるので、奇妙に感じられます。
この本の紹介文にもあるように、アッジェは自身の写真を図書館や画家に売って生活していました。その顧客の中にモーリス・ユトリロ(Maurice Utrillo)がいたらしく、実際アッジェが撮影した「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」とユトリロの同名の作品は構図もかなり類似しており、両者の関係を匂わせています(もちろんアッジェの写真が年代的に先行しています)。
解体と建築がめまぐるしく起こっている現代の都市をどう捉えるか、アッジェのパリの写真は何も示してはくれないが、そこから決定的に違う何かを掴まなければ、自分は現代の都市を撮ることができないように思う。