生きている―佐内正史写真集生きている―佐内正史写真集
佐内 正史

青幻舎 1997-04
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佐内正史の写真集。この作品に対して、何を言えばいいのか。写真集の流れとしても、非常にインパクトのあるメッセージを持った写真があるわけでもなく、かといってカオティックに分裂した諸断片の集合でもない。類似性という統一感も、混沌性という統一感も佐内の写真集にはない。写真集とはとかく、写真家の「好み」が出てくるものである。アレブレボケの写真、建築写真、ポートレート写真などなど。これらはみな、一つの線で写真集を統一する。一方で、思考とはそうした一本線ではなかなか統一できない。一日一日思考自体は変わっていく。マイナーチェンジを繰り返しているのである。今日は外に出たくないな、もう夕方になってしまった、今日は違う道を行ってみるか、そんな思考が巡っているような気がする。それゆえ、佐内の写真は、「好み」の写真ではなく、「思考あるいは視線」の写真であるように思われる。何気ない日常のものがふと突然美しくなる、といったようなものが佐内の写真にあるとは思えない。佐内の写真においては、撮影対象は美しいか否かではなく、今日の気分はあれかこれかなのである。