安井仲治写真集安井仲治写真集
渋谷区立松涛美術館 渋谷区立松濤美術館= 松涛美術館=

共同通信社 2004-11
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安井仲治回顧展時に出された写真集。安井仲治の写真は、まさに20世紀初頭からの写真の流れを教科書的になぞっているかのようである。ピクトリアリズムの写真からレンガー=パッチュやバウハウスモダニズム写真を経て、マン・レイらに代表されるシュルレアリスム写真や1930年代のフォト・ジャーナリズムをも吸収していく。しかし、より驚くべきことは、彼の人生が1903〜1942年という極々短いものでありながら、写真において千変万化の様相を呈しているということである。20世紀初頭から半世紀のあいだに、芸術写真、報道写真、広告写真といったカテゴリーが明確化され多様な才能が数多く輩出されていった。従来の職業写真対アマチュア(芸術)写真という構造がプロ(芸術etc・・・)写真対アマチュア写真の構造へとシフトするのも、19世紀末から20世紀への変わり目に起こっていたことである。20世紀初頭に生まれた安井仲治はアマチュア写真と芸術写真とが重なり合っていた頃の雰囲気を残した(最後の?)写真家であったように思われる。
「磁力の表情」と「流氓ユダヤ」が同じ写真家の手によるものだということは、なかなか想像しづらい。マン・レイがドロシア・ラングのような仕事も手がけるというとより伝わりやすいだろうか。どうやってもその姿は頭に浮かびそうにない。それは、マン・レイもドロシア・ラングもプロフェッショナルな写真家として理解されているからであろう。すなわち、彼ら・彼女らの領分は明確に画定されており、その枠内で評価されているのである。それがプロフェッショナルということである。しかし、安井仲治はアマチュア写真家として、そんな領分など関係なく、眼に映る様々なものに接触していく。