TOKYO
作者: William Klein
出版社/メーカー: 造型社
発売日: 1964(?)
ウィリアム・クラインの写真集。世界の各都市(他にニューヨーク、ローマ、モスクワ)を写した写真集の中で、今回は「TOKYO」を取り上げてみようと思う。最初の写真が鏡に向って、ウェイトリフティングするボディビルの男性から始まるのは、何とも面白い。そして、次のページには、「モダン」ダンサーとして土方巽大野一雄らの強烈な写真が続く。特に看板を掲げた上半身裸の男性二人の写真と、覆面した男性が右手を顔の高さにまで挙げている写真は、この写真集全体の中でも突出したものとなっている。その次に、剣道の写真、相撲の写真、太鼓をたたく写真、野球選手の写真と続き、日本伝統のもので、かつ肉体に注目した写真が連続している。それから、一転して日本独自の風俗へと関心が移っていく。按摩の講習所、美容学校、銭湯、ちんどん屋、パチンコ・・・。昔のパチンコは椅子もなく、立ちながらしていたことに、この写真を見て始めて知った。
日本の芸術派グループ(ネオ・ダダ)の写真の後、神輿を担いだ祭の写真、そして学生服を着て団旗を掲げた応援団の写真が並んでいるのは、「祭る」という行為の幅広さを示しているようでもある。どちらも象徴的なものを一つ天上に掲げている。
学生や労働組合のデモの写真があったり、満員電車の通勤風景の写真があったり、小学生くらいの小さな子供たちの生き生きした写真があったりと、当時の人々の生活を垣間見る瞬間を我々に提供している。最初は物珍しさからシャッターを切っていたかもしれない。しかし、彼の写真が単なる観光写真にはならず、見るものに熱気や活気を伝えているのは、ウィリアム・クラインと対象との距離が観光客のそれとは全く異質なものであるからである。
対象に近づく最初の一歩と、対象から距離を取る最後の一歩で写真は決まる。そういっても言い過ぎではないのかもしれない。