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Thomas Struth

Monacelli Pr 2001-05-17
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トーマス・シュトゥルートの写真集。シュトゥルートの撮る町並みの写真は、細部に渡って微細に仕上げられている。彼の写真を見て真っ先に思い浮かぶのが、アッジェのパリの写真である。人間が一人も写っていないこともアッジェとの共通点であろう。そして、空が白くとんでいるのも、アッジェの特徴と似通っている。しかし、シュトゥルートがアッジェと異なるのは、彼がカラーにおいてもそうした写真を撮っていることである。これは単なるメディアの違いということには収まらないものがある。モノクロとカラーで、こうも町並みの印象が変わるのかと驚いてしまう。細部に至る微細な描写はカラーにおいて、モノクロで受けるような「静かな美」とは違う「ゆるやかな死」のようなものを感じる。カラー写真がmortalなものである、というのはもちろん比喩であるが、認知できないくらいのよどみのようなゆっくりとしたスピードで、朽ちていくような感覚。そういった意味で、シュトゥルートの町並みの写真はモノクロよりもカラーのほうが断然面白い。カラーのほうが何か静止していないような感じ、それはやはり細部というものが関わっているように思われる。
教会や美術館を撮ったシリーズも面白い。なぜだか美術カタログで見るよりも絵画作品が美しく見える。本来なら、カタログは周りの「邪魔」なものを排除して、「純粋」に「美的」に鑑賞するように作られたにもかかわらず、である。カタログにとって邪魔だと判断したものは、本当に邪魔だったのだろうか。
絵画作品は世界中のホワイトキューブを渡り歩くノマドである。そして、その作品を写した写真もまた、作品の周りの光景を排除してノマド的な性格を更に高めている。シュトゥルートのように作品が存在する場も含めた写真は非常にまれである。そして、そうした写真のほうに心安らぐ瞬間があるのは、ノマドとして浮遊する作品群ではなく、農耕民のように大地(美術館)に根を下ろしたほうが安心するということなのだろうか。それがつかの間のことだと知っていても。