立教映画人!?×特別企画
Wim Wenders ヴィム・ヴェンダース作品上映会・公開講演会@立教大学池袋キャンパス・タッカーホール
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/bun/100/20060501.html

講演会に入る前に、ヴィム・ヴェンダース監督が撮った『10ミニッツ・オールダー』(1)(2002)内の『トローナからの12マイル』(約15分)を上映。その後、"A sense of place" というタイトルで、ヴェンダース監督の講演会に。
タイトルが示すように、ヴェンダース監督は映画における「場所」という問題を、ハリウッド映画とヨーロッパ・日本映画との対比を通して、論じようとしている。監督は、まず次のように問いかける、"What is driving movie?"と。ハリウッド映画に代表されるような現代的な映画では、「STORY 物語」(PLOT 筋書きと言ってもよい)がその役割を担っており、配役までを支配してさえいる。
一方、ヴェンダース監督の観点では、ヨーロッパや日本の映画は、「物語」に完全に従属しているわけではない、としている。そこにおいて重要なのは、「A sense of place」、すなわち「場所」が生み出す関係性のようなものである。それは、何か一つの筋書きがあるというような類のものでは、決してない。その場所で起こる生全てに関わるものであり、歴史と言ってもよいかもしれない。
その例として、監督は自身の作品を次々と挙げていく。『ベルリン・天使の詩』(2)では、ベルリンという町のあらゆる建築様式に、守護天使が用いられていることに気付いたことがきっかけとなっている。それは、予め天使を配役として考えたものではなく、ベルリンの町を歩き回り、再発見した結果なのである。つまり、ベルリンという「場所」が、「物語」を生み出したのである。
このことを更に詳しく説明するために、『ベルリン・天使の詩』をリメイクしたハリウッド映画『シティ・オブ・エンジェル』(3)を、彼は例に挙げる。悪意を持って批判しているわけではないという前置きをした上で、ヴェンダース監督は、この映画には「場所」というものが全く感じられない、と言う。ハリウッド版は、舞台をベルリンからロサンゼルス(LOS ANGELS!)に移しているが、そのロサンゼルスの場所性がそぎ落とされている、というのである。その主原因となっているのが、「STORY 物語」主導の映画制作なのである。
そのことを証明するように、彼は「place」と「location」とが全く異なることに注目している。「location」という語は、ロケハンという言葉もあるように、「物語」に合った場所というようなものであり、「物語」がまず先にあるということを前提としている。となれば、その映画作品もまた「物語」に支配されることになる。
ヴェンダース監督は、『パリ、テキサス』『リスボン物語』『夢の果てまでも』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のいずれも、その「場所」と密接に関わっていることを強調している。『パリ、テキサス』(4)では砂漠が、『リスボン物語』(5)では町中に聞こえる音が、『夢の果てまでも』(6)ではアボリジニにおける場所性が、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(7)では町中に溢れている音楽が、その土地その土地の場所性と切り離せないことを示している。
監督は、今度は逆に失敗例を挙げていく。『緋文字』(8)では、当初アメリカで撮影するはずであったのに、スペインになってしまい、「場所」との関わりが薄れてしまった。また、『ハメット』(9)においても、サンフランシスコだったはずが、ロサンゼルスに変更になってしまい、かつ会社側からもアクションやファンタジーが足りないと注文も出たせいで、作品としては満足のいくものではなかった。
ただし、このとき一つだけ良いことが起こったと、彼は言う。それは、ハメットの『RED HARVEST 血の収穫』(10)(監督のお気に入り!らしい)が、モンタナをモデルにしているらしいという情報を得たからである。そのため、『ハメット』の撮影場所にモンタナを推したが、結局叶わなかった。しかし、20年の時を経て、やっと『アメリカ、家族のいる風景』でモンタナを使うことができたのである。
更に、監督は「物語」主導の製作が覇権を握っている原因として、verbal cultureに対するvisual cultureの優位性を主張している。この発言に関する監督の真意は、はっきりと示されていたわけではないが、視覚的効果を狙った映画制作(それは、CGだけを指すような狭義の意味ではなく、「この画が欲しい」というような、単純な言葉の中に潜む視覚性も含んでいる)に対する批判とまずはとれるかもしれない。この部分は、学問としての視覚文化論とどのように関わってくるのか(あるいは、学問とは全く切り離された発言なのか)興味深くはある。
「場所」というものが、開発の名の下に次から次へと破壊されている現状の中で、どのように対処すべきか、監督は3つ提案している。
対処1:自分の土地・文化を正等に評価する
対処2:これらが自分の遺産であることを意識する
対処3:こうした文化を保管・保存する
この部分に関して、私個人としては、次から次へと壊しては造り壊しては造り…という状態において、「A sense of place」は在り得ないのか、と監督に問うてみたい。古きもの懐かしきものが壊されるとき、陰鬱な気分しか感じないのだろうか。
同潤会アパートは、私にとって立ち入り禁止の公園みたいな感じだった。そして、今そこには表参道ヒルズが建っているが、陰鬱な気分ばかりでもない。壊されることは、何かが生まれ出ることでもある。表参道ヒルズの地下3階でヴェンダース監督の写真展を観た人にとって、表参道ヒルズはその人の歴史の一部となるかもしれない。それは、同潤会アパートのときには、起こらなかったことかもしれない。
最後に、ヴェンダース監督は「場所」と私たちとの関係を以下のように表現している。
Places do not belong to us.
We belong to them.

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