牛腸茂雄作品集成牛腸茂雄作品集成
牛腸 茂雄 山形美術館 新潟市美術館

共同通信社 2004-09
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牛腸茂雄の作品。この写真集は展覧会の折に作成されたもの。牛腸茂雄という人物は36才の若さで亡くなった写真家で、世に出た写真集も『日々』、『SELF AND OTHERS』、『見慣れた街の中で』の三冊だけであった。牛腸の死後、その存在に光を当てるのに一役買ったのが飯沢耕太郎である。
牛腸の最初の写真集『日々』は、プロヴォークのメンバーであった多木浩二中平卓馬に酷評されることになる。確かにプロヴォークの作風と比べると、牛腸の作品には痛々しいほどに研ぎ澄まされた表現といったものは感じられない。しかし、プロヴォークのようなすべてを疑う態度から生まれる荒涼とした画面とは違って、牛腸の画面にはすべてを信じる、肯定する意思のようなものが感じられる。すべてを疑うことが非常に困難であるのと同じように、すべてを信じ、肯定することもまた非常に困難であることは我々の実生活を通しても分かるであろう。何も疑問を抱かないということがすなわち信じるということではない。日々のあらゆる事象を走査し、そして信じる。牛腸もプロヴォークも同等の困難さを持って同時代を生きてきたのである。
牛腸は、写真のほかにインクブロット、デカルコマニーの作品もあり、精神分析学や臨床心理学の影響を受けていることも興味深い。ロールシャッハテストから着想を得たこれらの作品は、写真とは異なる牛腸のもう一つの人間探求の成果といえよう。