Sarah Moon

・作者: サラ・ムーン
・出版社: 何必館
・発売日: 2002/05
サラ・ムーンの写真集。この写真集をどう紹介しようか毎回考えていた。サラ・ムーンの写真を人に伝えるときにどのような表現を用いればいいのか、それをずっと考えていた。その表現を手探りながらも、今回ここで模索してみたい。
サラ・ムーンの写真を初めて見たとき、なにかずっと昔に感じた感覚に似たようなものを感じた。それが何かをずっとさかのぼってみると、幼少期の、ファンタジー小説や絵本を読んでいた感覚に似ていることに気がついた。それはもしかしたら、その小説の挿絵や絵本の図柄にブレたものが多かったからなのかもしれない。というのも、彼女の写真の多くにブレた画面や枠まで一緒に写したものがあるからである。
さらにまた、幼少期にまでさかのぼらせた一つの要因として、彼女の写真全体にある種の古臭さ、それは写真黎明期の技術の拙さをうかがわせるようなものでもあるのだが、そうした写真の歴史の歩みを感じさせるような部分があることも関係していよう。彼女の写真には、そうした過去の写真の歴史(それはエキゾティシズムの写真であったり、写真黎明期のぼけたポートレイト写真であったりなど)を想起させる力があるように思われる。いや、そうした写真の歴史を参照せずとも、過去を想起させる力が彼女の写真にはあるはずである。それは一体何なのであろうか。幼少の頃によくしたこと。それは水の中で見るような、そんな感覚。プール。そう、彼女の写真には何か水のような膜があるように感じられる。過去の記憶が、その水とともにふっと沸き起こってくる。ファンタジー小説や絵本を想起したのも、その水とともにふっと湧き上がった自らの記憶なのかもしれない。