CINDY SHERMAN

・作者: シンディ・シャーマン
・出版社/メーカー: 朝日新聞社
・発売日: 1996

シンディ・シャーマン回顧展のカタログ作品。まず本作品の前半にある白黒写真とカラー写真とでは全く印象が異なることに気付く。どちらも映画のワンシーンを想起させるような被写体、構図、小道具があるのだが、白黒写真ではシャーマンが対談で述べているようにノスタルジックな感情を強く喚起させる。それは被写体の髪型や服装に世代の違いを感じさせるからでもあるが、やはり白黒の効果が利いている。しかし、そのように感じた自分自身について考えてみると、物心ついたときにはすでにカラー(テレビ、映画、写真)のメディア世界に生きており、白黒の世界を見ることのほうが圧倒的に少なかったはずである。白黒とカラーの狭間に生きていないのに、白黒にノスタルジックを感じる。これはまさにテレビ、映画、写真などのメディアによって構築されたものであろう(白黒とカラーの狭間に生きた人間は、白黒に昔らしさを感じることはあるかもしれない)。だから、シャーマンが白黒にノスタルジーを感じる感覚と私が白黒に感じる感覚は性質としては同一かもしれないが、その発生過程がまるで違うのかもしれない。シャーマンの白黒の写真とカラーの写真は、そうしたメディアによるノスタルジーの構築に一役買っていると言えなくはない。シャーマンの写真がフェミニズムやシミュレーショニズムの側から語られることはあっても、写真に対する我々の感覚(古く感じたり、新しく感じたり)という点ではあまり語られてこなかった。それは彼女の作品が写真というよりまず現代アートであるという認識に起因するのかもしれない。
そうした意味で、テレビ、映画、写真というメディアと感覚との相互関係で今回述べてみた。シャーマンの作品に対しては、ダントーやクラウスなどポストモダンのアートに深く関わっている研究者によって論じられた著作・文献が数多くある。そうした先行研究をそろそろ体系的にまとめる作業があってもよいかもしれない。