地名論―Genius loci,Tokyo地名論―Genius loci,Tokyo
高梨 豊

毎日コミュニケーションズ 2000-11
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高梨豊の写真集。彼は東京・牛込の生まれだそうで、私の住んでいるところもほぼ同じところにあり、その縁もあって今回取り上げることにした。この写真集には私のよく知る場所が写されている。早稲田、市ヶ谷、筑土・・・。どれもよく通る場所であり、見慣れた光景である。
『地名論』というタイトルが示すように、一つの地名に二枚の写真を配して、合計39箇所の地名を取り上げている。新しい建築物の中に、その地名を長く負った古い建造物がひっそりと隠れるかのようにたたずんでいる。その画面にたまたま映り込んだ人々は、その建物の存在を意識することなく、通り過ぎている。そして、いつかその建物も消えて無くなってしまうだろう。だが、果たして、その建物を覚えている人はいるのだろうか。この前、私の家の近所にあった建物が取り壊されたが、そこにかつてあった建物が全く思い出せないでいる。いや、正確に言えば、かつてあった建物に意識が向うのではなく、これから建つ建物の方に意識が向いていると言ったほうがいいかもしれない。建築物は常にサイクルするものとして、一回性のものではなく、常に更新されるものとして、在る。最近の市町村の合併騒動を見ても分かるように、地名もまた常に更新されるものとして、在るのである。
しかし、ふとしたことでかつての地名が浮かび上がってくることがある。それが、高梨豊の生まれた、そして私の住んでいる「牛込」という場所で起きたのである。大江戸線の開通により、今は「原町」となっている場所に「牛込柳町」駅(注:もしかしたら都営バスはずっと「牛込柳町」という名を駅名に使っていたかもしれない)ができたが、その地名は原町の昔の地名で、けれど今は「原町」よりも名前の通りがいいかもしれない。牛込郵便局、牛込警察署など、「牛込」という名が残っている建物は意外に多い。我々が考えている以上に、地名はしぶといのかもしれない。