棄景/origin棄景/origin
丸田 祥三

自由國民社 2005-03
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丸田祥三の写真集。棄てられ、顧みられることもない風景。途中で途切れてしまった線路、その先に何もない、天空に向うだけの階段、誰も使うことのないホーム・・・。人一人いない空間、だがかつてそこに人がいたということだけはひしひしと伝わってくる感覚。廃墟という響きに胸躍らせてしまうのはなぜなのだろう。何かに出くわしたいのだろうか。幽霊?お化け?それともまた得体の知れないもの?当たらずとも遠からず。あるいは我々が持っているはずの無い、そこでの「記憶」に会おうとしているのか。廃墟の中に残された遺留物に、何か興奮するものを抱くのはそうしたことがあるからかもしれない。
廃墟には、「原」記憶なるものがあるように感じるのは私だけだろうか。もしかしたら、それは単に自分の過去の記憶とすりかえているだけなのかもしれない。だが、廃墟の中に入った瞬間、記憶を揺さぶられるあの感触は単なるすりかえとはとても思えない。恐怖とも郷愁ともとれないあの感覚。自分の記憶と何らかの記憶がせめぎ合う地としての廃墟。その魅力の源泉は無数に存在するのかもしれない。
有名な廃墟を巡るような書籍や雑誌の特集が毎年のように出てくるが、旅行先でふらっと脇道に入ったときに突如現れる廃墟、なんていうのが私には魅力的に思われる。入ろうか入るまいか逡巡する、あの微妙な時間。実はその葛藤が一番ドキドキする瞬間なのかもしれない。