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筑豊のこどもたち 土門 拳 築地書館 1977-07 売り上げランキング : 43,847 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
町の隅々にまで子どもたちがひしめいている。家々の間隔が異様に狭く、皿を食卓に置く音さえ聞こえそうである。これほどの近さだと、子どもたちも顔を合わさずにはいられないだろう。野球ができるような大きな広場は周りにはありそうもない。そうすると自然と町の中に子どもたちが溢れかえることになる。子どもの泣き声や叫び声があちこちから聞こえてくるようだ。しかし、そうした子どもたちにも暗い影が忍び寄っていた。当時、捨て子、遺児、孤児などが炭鉱街で多く発生していたのである。それは、炭鉱街全体に広がる「終わり」を暗示してもいた。そうした福岡の炭鉱街の裏表を土門拳は包み隠さず写していった。一番最初に皺寄せがくるのが子どもたちのところであることは、土門拳も知っていたであろう。しかし、そうした過酷な状況の中でも子どもたちは笑って毎日を過ごしている。その笑い顔の中に不意に見せる哀しげなのか物憂げなのか何とも区別のつかない表情を土門拳は見逃さない。人間愛という以上に、ある種の冷徹な人間観察がこれらの写真には見受けられる。その一例として、ボタ山で炭拾いをしている子どもの手のクローズアップの写真があるが、この手は子どもの手とは思えないほど薄汚れ、しわくちゃになっている。この手を見れば、子どもたちに何が起こっているのかがはっきりと見てとれるだろう。老人のようなこの手を見れば。