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しかし、その結果はどうだろうか。彼女の顔は特徴がないように見えて、実はかなりの程度同定できる。そもそも写真において、「特徴のない顔」というのは存在するのだろうか。「特徴のない」という言葉は、「取り立てて言うほどもない」「描写するほどのものではない」あるいは「いまいち思い出せない」といった言葉と互換できよう。そこには、記憶や絵筆による「再現」という行程があり、そうしたものから抜け落ちてしまうものを「特徴のない」ものと指す。彼女の顔は写真において、特徴のないものでは決してないように思われる。それは写真の一つの特質かもしれない。
彼女の写真を「証明写真が結局、証明不可能に陥る」というパロディとして捉える代わりに、ID400と謳っておきながらかなりの程度同定できるその中途半端さを、パロディを好んで行なう現代アートに対する一つの反応としてみることはできないだろうか。証明不可能性を示すだけならば、もっと劇的に変装するなり、いろいろとやりようはあったはずである。それよりも重要なこととして、取り立てて優れた能力も持たない人物が自分のできる範囲で変身を試みたものの、あえなく撃沈した、ということがまさに我々の大多数と重なる部分であるということである。森村やシャーマンは高度な技術を持った従来の芸術家像と重なるが、澤田はそうした芸術家像とは違うところにいるように思われる。「洗練 refinement」を求めない、これは一つの写真の方向性かもしれない。