Desert CantosDesert Cantos
Richard Misrach

Univ of New Mexico Pr 1987-05
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リチャード・ミズラックの写真集。彼の写真集は、大きく4つのセクションに分かれていて、それぞれ「The Terrain 地勢」「The Event イヴェント」「The Flood 洪水」「The Fires デザート・ファイアー」となっている。
「地勢」では、広大な台地の上に、どこかしら人為的な跡(目立つものでは道路や鉄道、見つけ辛いところでは、車輪の跡など)が残されているような写真が撮られている。「イヴェント」は、おそらくアメリカ空軍の航空ショーが行なわれるであろう、だだっぴろい、草木も無い荒地の上にぽつんぽつんと点在する、コンテナやトイレ、そしてキャンプ用テントの写真を撮影している。
そして、今回注目して見たいのは、「洪水」のセクションである。日本でも、今年何回か水の被害があった。また、アメリカでは大型ハリケーンカトリーナそしてリタの影響で、堤防が決壊し、1000人以上の死者を出したことで、何度もニュースで取り上げられ、記憶に残っていると思われる。ミズラックの写真は、非常に静的で、ある種の雄大ささえ感じられるのだが、画面をよくよく見てみると、「異常な」事態が映り込んでいる。水位と防波堤の天頂とが同じ高さになっており、一瞬歩いて行けそうな錯覚を覚えてしまいそうである。家屋の中の写真は、水の勢いの凄まじさを静かに伝えている。もう再生する力もなく、塩水で朽ちていく家々。町中の物に急激にサビが進行していき、たちまち茶色の町と化していく。最後の「デザート・ファイアー」は、何も周りにないような広大な荒野に突然、火の手が上がったかのような状態から、一気に焦土と化していく様を、その傍でずっと見つめている。その見つめる先にある大地もいずれ焦土と化していくのだろうか。後を振り返れば、もう焼け跡しか残されていないというのに。