「映画と写真」no.3

オープン・ユア・アイズ [DVD]オープン・ユア・アイズ [DVD]

ポニーキャニオン 2004-01-21
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アレハンドロ・アメナーバル監督の『オープン・ユア・アイズ』(1997)を観る。今まで紹介した映画はいずれも写真家(photographer)がメインの映画であるが、この映画では写真(photograph)がメインであり、二人の女性の「交換」を果たす重要な媒体となっている。
主人公のセサルは同じ女性と二度会うことはしないというポリシーを持つほどのプレイボーイぶり。ヌリアという女性と良い仲だったが、別れることは目に見えていた。そんなある日、彼は友人のペラーヨが連れてきた女性ソフィアを一目で気に入る。ソフィアの心を射止めたかに見えた矢先に、嫉妬に駆られたヌリアがセサルと無理心中しようと、自動車事故を起こす。その事故から奇跡的に助かったセサルだが、顔に重傷を負い、彼の人生も狂い始める…。
以上が映画の簡単な内容だが、写真が重要な媒体として登場するのは、①セサルが初めてソフィアの部屋に行くとき、②ペラーヨにソフィアとのツーショットを撮ってもらうとき、③ツーショット写真を見せてもらうとき、④再度ソフィアの部屋に行くとき、である。
①ソフィアの部屋の壁には無数の写真が貼られているが、それらの写真は彼女の幼少時から現在までの姿を写したものであり、彼女の記憶、人生、歴史を示している。セサルはその写真を見、ソフィアという女性の人格を形作っていたものに触れることで、ソフィアの「存在」を難なく受け入れることができたのである。その際、写真は(セサルにとって)彼女の人格の基盤となり、彼女の存在の根拠となっている。加えて、その写真はセサルの記憶の一部ともなる。
②自動車事故後、疎遠となっていたソフィアとの仲だが、顔の修復手術が成功し、ソフィアとの仲も修復することができた。セサル、ソフィア、ペラーヨの三人で夕食を採っているとき、ペラーヨはセサルとソフィアのツーショット写真を撮る。この写真は二人の関係が完全に修復したことの証である。そして、そのツーショット写真はソフィアの部屋の壁の写真と同じように一緒に貼られ、彼女の記憶、人生、歴史の一部になることを予期させる(これが「セサルの夢」の願望であったのだろう)。
ここまでの写真の機能は「基盤」や「証拠」であり、ソフィアとセサルを結び付ける役割を果たしていた。しかし、これ以降、一変する。
③ソフィアとの関係が修復したことを喜ぶセサルであったが、ある晩一緒に寝ていたソフィアが突然ヌリアに変わってしまう。しかし、ヌリア本人は自分を「ソフィア」だと名乗る。気が動転したセサルはヌリアを殴ってしまう。セサルはソフィアが行方不明になったと警察に言うが、相手にされず。警察署の外で待っていたペラーヨはセサルにツーショット写真を見せるが、そこに写っていたのはセサルとヌリアの姿であった。この写真はセサルとソフィアの関係を完全に崩壊させるものであると同時に、ソフィアの存在を危うくするものである。
④未だ信じられないセサルはソフィアの部屋に無断で侵入する。ソフィアの存在の根拠となっていた写真を見るためである。しかし、どの写真にもヌリアが写っている。ここにおいて、写真は存在の根拠付けという機能を喪失し、ソフィアの存在はヌリアに完全に乗っ取られてしまう(もちろん、セサルにとって、であるが)。
更にもうひとつ、セサル自身の危うさもここで描かれている。それは、彼が初めてソフィアの部屋に行ったときに書いた彼女の似顔絵である。自分の手でソフィアの似顔絵を書いたはずなのに、ヌリアの似顔絵になっている。
この映画は、現実の部分と夢の部分が非常に曖昧に描かれているのだが、映画の後半部分で①よりも後で②よりも前のときに夢の部分に入っていたことが明らかにされる。①においてセサルの記憶の一部となっていたソフィアの部屋の写真は、夢の作用によって最初は②のようにツーショット写真を壁の写真の仲間に入れようとするが、③や④になると完全に悪夢を描いてしまっている。しかし、これもまたセサルの夢の願望なのである。