BunMay2005-02-06






給水塔 WASSERTURME
・作者: ベルント/ヒラ・ベッヒャー
・出版社/メーカー: リブロポート
・発売日: 1992/3
今回はベッヒャー夫妻の「給水塔」。写真の世界において、タイポロジーを開拓したことで有名である。日本では畠山直哉の写真などがタイポロジーに当たるように思われる。タイポロジーに関しては、同じドイツで19世紀末から20世紀前半にかけて活躍したカール・ブロスフェルトを真っ先に思い出す。ブロスフェルトの撮り方は背景を白くあるいは灰色にして(条件を同じにすることで)クローズアップの植物の写真を撮っているが、これはベッヒャー夫妻の撮り方にも表れている。実際の撮影状況は推測するしかないが、おそらくほとんどが曇りの日(もしかしたら暗室の段階で覆い焼きをしているかもしれないが)に撮っているようであり、そのために背景が等しく白くなっている。その背景の白さがタイポロジーの同型性を示している。
ベッヒャーの写真は、多木がこの写真集に寄せている文章に書いているように、希少なモニュメントを撮影しているわけではなく、どこにでもあるありふれたものを撮影している。生活と切っても切り離せないものを芸術の世界に持ち込むというのは、現代芸術のアーティストであるラウシェンバーグも実践していることであり、ある時代の潮流を感じさせる。
ベッヒャーのこうした写真を見たとき、私はデュシャンの「泉」を目の前にしたときの反応をふと想像してしまった。つまり、便器を前にして、我々はその便器の丸さや光沢を格別賞賛したりはしないはずである。では、この給水塔を前にしてはどうか。給水塔を前にしても同様に、丸みやチェスの駒のような形状を殊更誉めたりはしない。アートワークとしての「泉」や「給水塔」は、その内在的な質を賞賛することにいかほどの価値があるのだろうか。

★ベッヒャー夫妻関連サイト★
Art Photo Site