BunMay2005-02-20





20世紀の人間たち 肖像写真集1892-1952
・ 作者: アウグスト・ザンダー
・ 出版社/メーカー: リブロポート
・ 発売日: 1991/5
今回はアウグスト・ザンダーの作品。この写真集自体はザンダー自身が出版したものではなく、死後に別の人間の手を介して出版されたものである。よって、この写真集の構成がそのままザンダーの意思によるものというわけではない。ザンダーはそれぞれ12枚からなる45のファイルで構成することを意図していたが、本写真集ではそれまでに至っていない。しかし、この写真集が「ザンダーの写真集」にはならなかったとしても、「ザンダーの撮った写真・集」として仔細に見ていく価値があるだろう。
ドイツのあらゆる階層の人々の写真を撮る前は、ザンダーは一肖像写真家であり、しかもかなり優れた芸術写真的手法を備えていた人物であった。それが、第一次世界大戦やオットー・ディクスらとの交遊を経て、非常に「厳密な写真」を撮るようになる。彼が社会的階層に非常に敏感になっていく背景には、自身が農民坑夫から都市の一企業の経営者にまでなった実体験と、肖像写真特有の背景に写る置物、壁紙のようなある階層を象徴する事物を扱ってきた実践とがあったように思われる。
ザンダーの写真の多くは、人物がある象徴的な風景(林道、田園、調度品の多い/少ない室内、作業部屋など)の中に存在している。その風景を通して、見るものは農民なのか都市民なのかを判断している。では、ザンダーは違いは風景だけであって、人間はみな平等であると言いたかったのだろうか。いや、ザンダーにそのような政治的意図はなかったように思う。それよりも、清潔な礼服を着てもその背景には畑ばかりが写っているという逃れられない現実を、本人の意思に関わりなく周りの風景によってその人物が規定されていく現実を2ないし4秒の露出時間をかけてじっくりと撮っていっている。背景の壁紙を変えることによってどんな階層にでもなれる魔法の肖像写真とどんなに着飾ってもその背景に従属してしまう肖像写真。この両者の肖像写真こそ、19世紀末から20世紀へと至る社会の裏表をなしているように思えてならない。

アウグスト・ザンダー関連サイト★
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