初夏神経初夏神経
小石 清

国書刊行会 2005-07
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小石清の写真集。今回見たのは、2005年の復刻版ではなく、1933年初版である。「黒と白」モノクロ写真ならば当たり前の構成要素であるが、しかし「黒と白」は一体何なのかと改めて考えてしまう。写真黎明期以来、何度となく言われ続けていたように、白=光、黒=影であろうか。その一つの答えが『初夏神経』にある。白は空であり、川であり、女の肌であり、機械であり、「小石清」である。黒は鐵であり、石であり、丸太であり、瞳孔であり、「初夏神経」である。小石清は写真集の後ろのほうで、何を撮ったのか種明かしをする。9番目の写真について「夏蜜柑の一片を引伸機のコンデンサーの上に置きて引伸す」と素っ気無く書いている。その文章の素っ気無さのわりに、映像化された写真は非常に奇怪なものとなっている。微生物の顕微鏡写真のようにも見えるし、不思議な感覚を見る者に与える。
この写真集は多重露光モンタージュなどの新しい写真の表現形式が用いられている一方で、乾板を用いて撮影してもいる。8番目のクローズアップされた男性の顔の写真の中で目頭付近に銃弾が撃ち込まれたような穴が開いているのは、乾板に直に釘を刺したからである。しかし、その効果はフィルム状のネガでは決して表現し得ないものであり、毛穴まで見えてしまうような人間的質感とヒビが直線状に入るガラス特有の質感とが同時に一枚の写真の中にあり、なんともいえない居心地の悪いような、でもゾクゾクしてくるような感覚に襲われる。1930年代ならば、もうとっくの昔にロールフィルムは登場しており、乾板は時代遅れになっていたであろう。しかし、そうした時代遅れの乾板を用いながら、時代の最先端をいく多重露光モンタージュという表現形式を具現化する、その最高到達地点が8番目の写真なのである。