写真新世紀2006
観てきたので、感想でも。
正方形写真を研究している者としては、まず出品作品に正方形フォーマットがどれくらい使われているかが気になるところ。正方形フォーマットをそのまま提示している人、あるいは正方形フォーマットをアレンジしている人を挙げてみると、前者に含まれるものとして、清水朝子「On her skin」、山元彩香「being」、荒井七枝+加瀬健太郎「生きる力」、藤井昌美「そらみみのなりたち」、鈴木健司「ami」、そして後者に含まれるものが高木こずえ「insider」になる。後者のアレンジというのは、横幅が縦幅のほぼ2倍、すなわち正方形が2枚並んだ形式になっているということである(ステレオ写真の形式と同じ)。
今まで、見たことがないような使い方をしている人はいなかったかな。それは少し残念だけど。
清水さんの作品は、畠山直哉の「undergroud」地上版という感じ。水面の反射で上下対称の図柄を作り出している。
山元さんの作品は、ポートレイトはポートレイトでもカメラ目線にはならないポートレイトで、感じとしてはHellen van MeeneやRineke Dijkstraのような写真に近いかも。色合い的にも。
荒井さん+加瀬さんの作品は、良い意味でも悪い意味でも既存の写真の上に出来上がってしまっている。特徴を挙げよと言われれば、「モホリ=ナギ」「ダイアン・アーバス」「ジェフ・ウォール」「ヴォルフガング・ティルマンス」と即答できてしまうくらい、似通っている。
藤井さんの作品は川内倫子の作品にあまりにも似すぎてしまっているかな。でも私個人としては、川内さんの作品の一番のポイントは「人工性」からくる恐怖だと思っているので、藤井さんの作品と川内さんの作品は似て非なるものだと思う。
鈴木さんの作品は、正方形写真を蛇腹式で並べたりするという意味では、グリッド的に正方形フォーマットを用いようとしている感じかな。正方形でどう撮るというよりも、正方形でどう組むかのほうに力点がある。なので、正方形写真として訴えかけてくるものはない。
高木さんの作品は、今まで多くの人がシンメトリー写真を撮ってきた中で、右半分でシンメトリー、左半分でシンメトリーを作り、更にそれを2つ並べるという今まで無かった手法で制作されている点で、オリジナリティがある。片方だけでシンメトリー作品を作っている人はごまんといるけれど。
正方形関連はこれくらいで。次は、それ以外で気になった作品を少し挙げていこうかな。
野田若菜「まばたき」…まばたき以上の時間が経過している。ほんの少しのずれを見せる方が面白いと思うけどな。ほんの少しのずれで非常に面白くなる対象は探せばあるはず。
斉藤康晴「憂国の士」…「絵的」なものが入っているのが余計に感じる。日常を淡々と撮影するか、逆に「絵的」にみせてギャップを狙うか。でも撮影者としては前者を撮りたいんだろうなという印象。
大盛武彦「世界なり」…意図的にインクが染み込みやすい紙を使用して、発色を面白くしている。拡大した写真のほうを正方形にした意図を聞いてみたい。
宇津裕美子「小部屋からめくるめく」…浮世絵や西洋古典絵画の上に小物を置いて、その世界観を「台無し」にしていて、小気味好い。
中村木綿子「星を剥がす」…シャッター切るのがほんの少し遅い感じで攻めたほうが面白いかも。スナップショットはだいたいカメラ目線にならないんだけど、そこを意図的に遅らせて、目線を合わせてしまうほうが…。何点かそうした作品があったので。
川俣友美子「フロセルフ」…松井えり菜の絵やビョークのPVを髣髴とさせる。わざと面白い顔をするよりも淡々と真面目な顔で撮ったほうが、ギャップを楽しめそう。
鈴木芳果「Walls have ears」…発色というか紙選びも良いと思う。Wall1に関しては、定点観測で1年くらい毎日撮ったほうが絶対面白い。
相模智之「横浜」…あえて横浜の中心街を避けて撮影したようだけれど、これでは「横浜を俯瞰的に捉え」られないし、「図録化」もできない。
谷口浩「それがある」…インクジェットの白の発色の面白さに着目したのはいいが、それ以降が見えてこない。「白は美しい」という予定調和。白を見るのが嫌になるくらい飽きるくらい白を撮り続けて、それでもなお「白は美しい」と言うくらいでなければ…。白地に赤い血というのが非常に美しく見えてしまう瞬間が実際にあることを考えれば、白という色がもつ危うさは無視できない。